院試体験記

はじめに

 大学院入試の合格発表が終わり、友人に合格体験記を書くことを勧められたので、一つのけじめとしてここに合格体験記を書いておきます。

 私は都内の私立大学に所属する学生で、この夏、京都大学東京工業大学の物理学系(素粒子論)を受験し、どちらも合格することができました。素粒子論と聞くと優秀そうに聞こえますが、私はお世辞にも優秀と言える学生ではないので、参考にならない部分も多いと思います。

学部3年次まで

 学部3年次までは、通常のカリキュラムに加えて、だいたい半年から1年先の内容を自習していました。しかしながら、演習問題を解く習慣はなく、もっと早い段階で演習の重要さに気づくべきだったと反省しています。また私は体育会にも所属していたため、勉強に部活、バイトと、忙しい生活をしていました。当たり前のことかもしれませんが、大学は勉強だけをするところではありませんから、院試はあまり気に留めずに色々なことを経験しておくべきなのかなと思います。

参考までに学部3年次の終了時点での私の状態は次のようでした。

 

 

4年での勉強

4月から6月

 院試を意識して過去問を本気で解き始めたのは4年に入ってからでした。東工大の友人に誘われて院試ゼミに所属することができたので、ゼミメンと議論しながら過去問を解きました。ゼミメンはかなり優秀な人が集まっていて、とても良い刺激になりました。

 週2回の場の量子論のゼミで、発表を2人で回していたので、それもまあ大変でした。口頭試問で場の量子論の質問をされたので、この時期に場の量子論にかなり触れたのが役に立ちました。

 6月に教育実習があって、勉強時間の確保に苦労しましたが、授業準備という名目で田崎『熱力学』、『統計力学Ⅰ・Ⅱ』を実習期間(3週間)で読破しました。

 

7月から8月

 最終的には自大学と京大、東工大あわせて30年分以上の問題を解きました。大学ごとに傾向がかなり違うので、複数の大学を受ける場合は第一志望以外もまんべんなく解くのが良いと思います。

 

具体的な勉強

 取り組んだ教科書は書いておきますが、一人ひとり合う教科書は違うでしょうし、好きなものを読むのがいいと思います。(ただ、砂川リロデンと田崎統計は強く勧めます。)

力学

 はじめに書いておきますが、私は力学が苦手です。ゆえに参考にならない部分も多いと思います。取り組んだ本は、ランダウ教程と共立カステラ板(詳解演習)です。

 院試では剛体の動力学が頻出ですが、これがなかなか厄介です。剛体の問題ではラグランジアンを書き下す場合もありますが、ラグランジアン形式が遠回りになる場合も少なくありません。多くの問題では微小振動に帰着されますが、厳密解を求めろと言われたら微分方程式を解く必要があります。つまり何が言いたいかというと、問題に応じて適切な解法を選択しなければなりません。これがまあ、難しいんだあ。

 対策としては、運動方程式を立てたり、運動エネルギーを適切にして書き下す練習をするのが良いと思います。非常に退屈で面白みに欠ける訓練になりますが、便利な一般論はありませんので、やるしかありません

 

電磁気学

 電磁気学如何にマクスウェル方程式を運用するかという学問ですが、力学と大きく違うところは、系によって使うべき方程式が異なるところでしょう。ゆえに必要な方程式を見極める必要があり、それにはマクスウェル方程式への理解が重要です。電磁気学はこれをやればよいという本があって、それは、砂川『理論電磁気学(リロデン)です。(私はリロデンの1章1節のお話がめちゃくちゃ好きです。)

 マクスウェル方程式は8本の方程式からなりますが、学習が進んでくると微視的なものが8本、巨視的なものが8本で計16本あることに気付きます。まずは、これを理解することを目標にしましょう。境界条件も重要なので、空で導出できるようにしたいですね。

 東工大を受けるのであれば、物質中の電磁気学が頻出なので、たくさん問題に触れておきましょう、分極ベクトルの定義なんかも覚えておく必要があります。

 東工大ではあまり出ませんが、京大では電磁波の輻射は出るので理解しておきたいですね。とはいえ、技巧的な計算を求められることは殆どありません。トムソン散乱やレイリー散乱がどういう現象なのか説明できるようにしておきましょう。輻射の計算練習がしたいのなら共立カステラ板がオススメです。

 

量子力学

 束縛問題が頻出です。時間に依存しない固有値問題を解いたあと、摂動を加えたり、時間発展を考えます。内容は意外とワンパターンですが、計算量は多くなりがちです。波動関数がらみの問題では仕方ない事ですが、期待値や摂動の計算で部分積分をめちゃくちゃします。いわゆる「瞬間部分積分」だったり「USA式部分積分」と言われるテクニックはかなり有用なので、できるようになっておくと計算ミスが減ります。あとはガウス関数をたくさん微分しておきましょう。

 賛否両論別れると思いますが、量子力学に関しては「演習しよう量子力学がオススメかもしれません、誤植はありますが、井戸型ポテンシャルなどはとても良く書かれていると思います。サクライなんかも読んでおくといいと思います。

 

熱力学・統計力学

 統計力学はパターンの多い分野ではないので、しっかりと対策をすれば得点につながりやすいと思います。相転移を起こすのならば臨界指数の計算をさせられ、そうでないならエントロピーや比熱の漸近形を計算し、グラフを書かされます。

 対策としては、分配函数の扱いはもちろんのこと、漸近形の計算に慣れておく必要があります。もっというと、物理的な考察から漸近形を予想できるようになっておくのが良いと思います。縮退を考えればエントロピーの概形を何も計算せず書くことができることもありますし、量子系の比熱は低温では温度軸に張り付くだろうし、高温ではエネルギー等分配則からわかることもあります。

 理想ボース気体、理想フェルミ気体のお決まりの解法も覚えておきたいところです。大学物理は解法の暗記ではなく、基礎方程式の運用にあるという思想はもっともですが、私たちはアインシュタインではないので量子気体の解法を覚えずに運用で乗り切るのは無理があります。上位の研究室を目指す人は、パウリ常磁性の問題で出てきがちな技巧的な分布関数の扱いなども覚えておかないと…大変だあ。

 東工大では熱力学らしい議論は(全くといっていいほど)出題されませんが、京大は普通に出してきます。もう捨ててもいいほど難しい問題もありますが、田崎『熱力学』に書いてあるようなことくらいは理解しておきたいですね。ちなみに私は熱力学ができません。

 

物理数学

 微分方程式を解くにも、積分を計算するのにも慣れが必要なのでたくさん演習しましょう。当然ですが、物理数学の対策は他のあらゆる分野の対策にもつながります。

 

さいごに

 院試勉強は(特に私のような不出来な学生にとっては)かなり辛く、メンタルが削れます。毎日朝起きてちゃんとごはんを食べ、ゆっくりお風呂に入ってちゃんと寝ないと人間おかしくなってしまうものです。あまり根を詰めすぎないで、楽しく勉強していきましょうね。